猫はいなくなった
九十九里町里親が決まって、「よかったね。幸せになるよ〜」と猫には話しかけていた。猫はベッドの布団の上に枕を置いて座り、日に当たっていた。最後になると思って、記念に撮ったのがこの写真。
食べる量は少ないけれど、二日に一回くらいは便も出ていたし、保護した翌日に吐いた以外は、体調を保っているように見えた。もしかしたら、腎臓の病気ではなくて環境が変わったストレスだったのかもしれない。
けれど、今朝も缶詰をふた匙食べたきり、二階で休んだままで、夕方降りてきたと思ったら水を飲み、トイレに出たり入ったりを繰り返していた。そして朝食べたものを吐いてしまい、またトイレをしようとして、うまくできないようだった。台所のあちこちでトイレのために座る姿勢をして、窓のところまで来たので、外で試したいのだろうと思い、窓を開けてやった。猫は縁側を降りた壁の前で土を掘り、またしばらく用を足そうとしていた。しかし何も出ていなかった。
それから塀に飛び乗り、歩いて、座って風に当たっていた。
この時点でわたしは、直感的に、彼女はもうどこかへ行ってしまうと悟った。一目散に走って逃げたのではない。猫はただプイッと反対側に向き返り、ゆっくり歩いた後、お隣さんの敷地へ飛び降りたのだった。
保護した猫を逃してしまった。里親も決まったところだったのに。でも、これは彼女の選択だった。保護してから12日間、一度も外へ出ようとはしなかった猫だ。最初に現れてから家に入れてやるまで二週間以上、外がいくら寒くても、縁側に座り窓にへばりついて動かなかった猫だ。毎晩、一日中、二階のベッドで寝ていたし、起きてきてストーブのそばで休んだり、家になじんでいるようにすら見えた。しかし彼女は今日、自分の意志で、どこかへ消えた。